志乃ちゃんは自分の名前が言えないという漫画があります。
作者は押見修造さん
『惡の華』や『ぼくは麻里のなか』などの作者さんで、人の心の中の描写、醜さや美しさをリアルに表現される漫画を描かれます。
そんな押見さんが描かれた漫画
【志乃ちゃんは自分の名前が言えない】
これは吃音症の一人の女の子が、吃音で苦しみながらも成長し、生きていく漫画です。
作者の押見さんが吃音症であったからこそ描けた漫画。
私がこの漫画に出会ったのは、就職活動中でした。
私は就職活動では必ず存在する面接。そこで自分の名前を言うことが出来ないのです。
そう、私も吃音症でした。
今回は、漫画【志乃ちゃんは名前が言えない】を、私の経験とを交えて、
吃音症の方には、私のような人も居るということを
吃音症を知らない人には、もっと吃音症のことを知ってもらえるようお話をしたいと思います。
目次
吃音症とは
志乃ちゃんは、高校入学式の前日、自分の名前の発声練習をしている場面から始まります。
次の日、入学式の日に皆さんも経験したであろう自己紹介。そこで失敗しないようにという練習でした。ですが・・・。
案の定志乃ちゃんは自己紹介で自分の名前を言うことが出来なかったのです。
吃音には二種類あるとされています。
ひとつは比較的有名かもしれません。
「ぼぼぼぼぼぼ、ぼくくくはははははは」
のように音が連なって発生させてしまうものです。
もう一つが志乃ちゃんや私のように
「・・・・・っぁ・・・・っく・・・・」
のように喉で息が詰まったかのように、喉から息が止まってしまったかのように、全く音が出なくなってしまうものです。
特に難しいのが【母音】です。私の場合は更にあ段【あかさたなはまやらわ】がとても言いにくいです。
私の名前もあ段にあります。ですので、私も志乃ちゃんと同じように自分の名前を言うことが出来ません。
志乃ちゃんは自己紹介の時に名前を言うことが出来ませんでした。ですが、自己紹介は所詮一度です。(クラス替えで毎年自己紹介をする人もいるかもしれませんが)
私は比較的軽度の吃音症ですが、それでも言葉に詰まる事は一日に何度も有ります。突然やってくることも有れば、自己紹介など、決まった時に必ず言葉が出てこない事など、様々です。
そんな吃音症の人が確実に経験するであろう、最大の難関が就職活動中での面接です。
吃音症最大の難関
規模の大きくない企業では、チャイムを押して、受け答えをしてから入る企業もあります。
私はチャイムを押すことが出来ません。正確にはチャイムを押す事にとてつもない恐怖を感じるのです。それでも頑張ってチャイムを押します。押す前に今日は面接に来たこと、自分の名前をちゃんと言えるよう、インターホンの前で何度も練習します。
いざ押して相手が出ると
「・・・・っ・・・・ぁ・・あ」言葉が出ません。無理に出そうとすると
「ほっほぉほんっかっじ・・・」と言ったように、言語なのかどうか理解できない言葉が出てしまうのです。
勿論相手は聞き取れませんし、意味は通じません。
が、なんとかスルーはしてくれます。今のところココで詰まったことは私は有りません。が、この時点で確実に評価はマイナスです。
その後は志乃ちゃんと同じ。
まず絶対行う自己紹介が出来ません。
自分の名前を言えない相手を企業は雇おうと思うでしょうか? 思いませんよね。
私の場合、自己紹介さえ何とかしてしまえば後は話すことが出来ます。が、吃音症の人は今までに色々と人に言われてきている人が多いです。
その負い目を何となく感じるのか、面接で落とされることはとても多いです。そして更に自信を無くし、卑屈になって吃音も悪化していくという。負のループに陥りやすくなってしまいます。
悲しいことに実際にそれで自殺者なども出ています。
私から就活生にアドバイスをすることは出来ません。何故なら私もまだこの問題と付き合っているからです。ただ、1つ分かることは恐怖に負けないで、前に進まなければ行けないと言うこと。
無理に進むことは有りません。休憩しながらでいいです。周りがどんどん進むのをみて焦る気持ちも分かりますが、焦らずゆっくりでも進むことのほうが大事です。
吃音症は心理的なものではない
志乃ちゃんは自分がちゃんと発声出来ないことで、先生に呼び出しを受けます。
そこで先生から、『もっと緊張を解してリラックスしなさい』 と言われてしまいます。
確かに緊張していると声が出づらいと言うのは有ります。ですが、緊張だけが全ての原因では有りません。何故なら日常会話中でも突如として音が出なくなることはよくあることなのです。
会話中突然志乃ちゃんが「ありがとう」が言えずに「サンキュー」言い換える場面が有ります。
会話をしていて母音を言え無いので、とっさの判断で言い換えたのです。
このように、日常会話でも突然言えなくなるのが吃音症なのです。
最近の吃音症を扱ったとあるドラマを見ていた父が、
「こんなの慣れだなれ、もっと慣れれば話せるようになる」
と言っていたのを見て、何を言っているんだこの親父は!と本気でキレてつい父親に突っかかったことがります。
そしてその時、一般人には吃音症の事がただの精神的なもので、精神の弱い弱者だとしか思っていないのだなと気付かされました。
「ありがとう」は最難関の言語
志乃ちゃんが作中で「ありがとう」を言えず別の言葉にして感謝を伝えるシーンがあります。
日常会話で最も使うであろう「ありがとう」実はこれ、吃音症の人には凄く難しい言葉なんです。
私も学生時分アルバイトで受付をしていました。人と接する仕事を選んだのは吃音症(当時は吃音症だとは知らなかった)を治そうと思って、人と接する事に慣れれば直せるかと思った為でした。
ですが、4年間アルバイトを続けて、結局「ありがとうございました」は最後までちゃんといえませんでした。
「ぁっ・・がっとうございました」こんな感じです。
未だに私は「ありがとう」を苦手としています。
ですので、「っがとうございます」といった感じで、【あ】を敢えて言わないようにして、回避するすべを身に着けました。
吃音だけど何故か歌は歌える
志乃ちゃんはその後、加代ちゃんという音楽が好きでギターを引くけれども、音痴で自分の歌声にコンプレックスを抱く少女と知り合い友達になります。
二人は文化祭でライブを開くことを決めます。何故か志乃ちゃんは歌はつっかえずに歌えたのです。
吃音症の人は何故か歌は普通に歌えます。リズムが有るからとか、緊張しないからとか、色々説は有るそうですが、そのあたりはよく分かっていません。
私もアルバイトの人たちとカラオケに行った時、始めにビックリされたのが、ここでした。
「おまえ、歌なら普通に歌えるのか!」
私もその時になって初めて気がついたのですが、歌だと何も問題なく歌えるんですね。正直良くわかりません。ですが、どもらずに普通に歌えるという事はとても楽しです。
普段からよくどもる人は、気分転換にカラオケに行って思う存分歌うと良いかもしれません。
人はそれぞれコンプレックスを持っている
志乃ちゃんは、加代ちゃんという吃音について理解してくれる友達を得ました。
イザコザも有り、志乃ちゃんは文化祭で逃げてしまい、最後は加代ちゃんが自分のコンプレックスである下手くそな歌を文化祭で歌いあげます。
歌詞の内容に涙腺が潤むのを感じました。
歌については是非買って読んでみて下さい。
人はそれぞれコンプレックスを持っています。上手く喋れないコンプレックス、上手く歌えないコンプレックス、人より太っている、足が遅い、頭が悪い、不細工、その他色々有ると思います。
吃音症の人は、自分ではどうしようもないハンデを負っています。
どうして自分は他人とは違うんだ! と思った人も多いと思います。私だって何度も思ったことが有ります。
他人からバカにされて傷つく事も有ったでしょう。上手く行かなくて悔しくて涙したこともあると思います。
でも、それで諦めないで下さい。
【志乃ちゃんは自分の名前が言えない】の作者である押見修造さんも、自身が吃音症で有ったこと明かしていらしゃいます。
そしてその中で、
「得たものもあった。自身が内向的になって、ココロの中に押し込めていたものが爆発したことで、今自分が漫画家をやっている。漫画家になれたのは吃音症のお陰だ。私の場合それがたまたま漫画だっただけで、誰しも同じようにそれぞれ有るんだろう」
とおっしゃっています。
吃音症で辛い思いをした分、必ず何か得ているものが有ると思います。ですので、吃音だからといって諦めずに、少しづつでもいいので前に進んでいきましょう。
私も今、こうやてブログを書くことで少しづつでも前進しようと頑張っている所です。
また、身近に吃音症が居る人、若しくは吃音症自体よくわかっていない人。
まずは吃音症について理解してあげて下さい。身近の人が吃音症の事を知っているだけで、相手の吃音症の方は救われるのです。
最後に、漫画の感想
素晴らしい漫画でした。
漫画に出てくる志乃ちゃんの言動、思いなどそのまま私自身に当てはまり、何というか、よくこの漫画を描いてくれたと、押見修造さんには感謝を申し上げたい気持ちで一杯です。
ここまでリアルに吃音症の人のことを描けたのも、やはりご本人が経験されてきたからだと思います。
私が吃音症になったのは小学校3年生の頃です。原因はよく分かりません。突然言葉が出なくなったのです。
そして吃音症を知ったのが、就職活動中の事ですから、十年近く自分のことが分からず悩み続ける毎日でした。
このように、漫画という形で世に出されることで、私のように最近まで吃音症と言うこと自体知らなかった人にも知る切っ掛けになるのでは無いかと思うのです。
志乃ちゃんは最後、吃音症と向き合って進んでいく決意をします。
私も吃音症に負けずに、前に進んでいこうと思えるような素晴らしい漫画でした。